呼吸

死としての炭酸ガスを吐き出して草木が作る酸素に生きる
死を作り死を吐き出して生きてゆく宇宙の大きな営みの中
休みなく死を吐き出して我ならぬものに生かさる命を思へ
さん悔とは斯くの如きか炭酸ガス吐き出し酸素に生かされてゆく
休みなく罪吐き出して他者の出す言葉に新たな我にてあらん
休みなく呼吸もつごと他の語る言葉学びて生きてゆくべし
他の語る言葉に我の生くるごと我の言葉に他者も生くべし
我の死を他者に与へて他者に生く大きな宇宙の営みの中
幼子の言葉いつしか整ひぬ莟が花と開くるがごと
眠りたる一夜を覚めて今日のあり光り新たに窓に差し入る
血の流れさらさらになると玉葱と鯵の南蛮漬を下さる

一夜寝し瞳に朝の室明けてひと日を生きん布団をはねたり
緑濃き蔭に動ける葉のありて登り来りし汗収まりぬ
ひたすらに未来に向ひし若き日よ今は死が待ち明日の日のあり
人生の終りに近くなりたれば迷も豊かな内容とする
食べるより腐らすものの多くして老ひし二人に炎暑のつづく
億年の生死の哀歓限りなし蓄めてこの世に我等現はる
日に甘味増しゆく果実徒に過ぎゆく我を責めゐて止まず
真夜中をねずみ走れりわが祖等も斯く恐竜を逃れたりしか
いちじくは日々に甘さを増しゆくを我よ徒に衰ふなかれ
いちじくは一夜に大きく甘さ増す人の熟るるも斯くの如あれ
残りたる力絞りていちじくの一夜の成熟われももつべし
人を待つ間を鉢に金魚居て射に大きな眼に迫る
山路に轢かれし百足その足の多きが故の悲しみを呼ぶ
和田山の古墳より出でし鉄刀に井上昇の声の熟しゆく

和田山の古墳に数多の鉄剣の塊り出でしと誘ひ下る
写されし鉄剣の量大きなる権威なくしてあり得ざるもの
写されし鉄剣の量如何ならむ権威ありしか思ひ廻らす
貧弱な我等の知識で構想をなし得ぬ世界作りたりしか
舟運が文化圏を作り和田山が核となりしか等を思ひつ
この辺りに多々羅ありしか等問ひて井上昇館長と並ぶ
鉄が担ふ文化説き去り説き来り井上昇終るとあらず
もつれては離れる二匹の蝶のあり雌雄は踊の原点として
水なくてこの世に命あらざりき夜中に目覚めコップに注ぐ
これの世の栄華を捨てて唱名に生きし一人の女ありたり
身体の動き自ら整ひて男女は踊りをもちたるらしも
信長が亦書かれをり作家らに寸断されて信長輝く
豊かなる稔りに稲穂垂れ来り樋に渦巻きて水送らるる
争ひておたま杓子の逃げてゆく蛙となるは幾匹にして
涼風の立ち来て一気に癒さんと思ひしか日々のまどろしくあり
丸き顔丸き体を丸くしてパンダは笹の葉抱へて食ぶる

入道雲山を離れて白く浮き風は杜へとなだれゆきたり
ひと度を死したる者が生き返る神の心の即辺問ふべし
顔上げし友は輝く目となりて立ち上りつつ久闊を言ふ
目より入る言葉を己が撰び得る清しさもちぬつんぼと言へり
小さなる蚊が脚立てて血を吸へり健気と思へど即ち殺す
白雲に乗りて宇宙を遊歩なす昭々として辺際なし
酸素吸ひ炭酸ガスを吐き出せる瞬々ありて命営む
死を吐きて生を吸ひゆく瞬々の宇宙の中なる我にあるべし
はける息吸ひゆく息の体みな生かされゐるとは斯くの如きか
休みなく外と内とを交し合ふ呼吸大きな営みとして
宇宙を吐き宇宙を吸ひて止む事のなしと禅僧記しられたり
中国にこ中の世界と言へるあり広々として宇宙を収む

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください