男の恋愛は別名保存、女の恋愛は上書き保存

「カルメン」は男女の異なる恋愛観のため結実しない悲劇、「アイーダ」は時代に翻弄された男女の愛として終わっていますが、恋愛は男と女によって捉え方が違うようです。夏目漱石は小説「明暗」の中で「男の恋愛は別名保存であるが、女の恋愛は上書き保存だ」と言っています。ここで、その違いを生物学的見解から考えてみます。まず受精に際しては何億個もの精子が「戎神社の福男」のように1つの卵子を求めて我れ勝ちに突進しほぼ無尽蔵に作り出される精子をもって「数打ちゃ当たる」的な行動をとるわけです。これに対し卵子から見れば受精できる時期は約1か月に1度の排卵時のみで、しかも一生の間に作られる卵子の数が限られ、年齢も小学高学年から50才くらいまでです。このため卵子は優秀で健康なただ1つの精子のみを待っているわけで、大切な恋愛の時期を守り有効に選択するのです。

このようなことを休み中にぼんやり考えていると、2021年のショパンコンクールで2位と4位を受賞した反田恭平と小林愛美の電撃的結婚が報道されていました。どうやら「できちゃった婚(最近では授かり婚というようです)」のようですが、無責任な憶測はしないようにいたします。

受精に際し、唯1つの卵子に無数の精子が「戎神社の福男」のように突進する。ムーア「人体発生学」より

ウクライナ国立歌劇場「カルメン」と英国ロイヤルオペラハウス「アイーダ」

変異したコロナウイルスがまたまた猛威を奮っていますが、皆さんはお正月休みはどのように過ごされましたか?

私は感染対策を十分に行った上で、趣味の1つで道楽でもある「オペラ」を2つ観てきました。

1つは、ウクライナ国立歌劇場によるビゼー作曲「カルメン」です。ウクライナ歌劇場はボリショイ劇場(モスクワ)、マリインスキー劇場(サンクトペテルブルグ)と並ぶ旧ソビエト連邦における3大歌劇場です。以前キエフ劇場(キエフはロシア語、ウクライナ語ではキーウ)と呼ばれ、学生時代には歌劇場附属のオーケストラを聴きにいったことがあります。現在ロシアとの戦争の渦中にあるウクライナは、人口4000万人ちょっとと日本の約1/3ですが、肥沃な土地と恵まれた気候、水資源のため「欧州の穀倉地帯」と言われていることはご存じのことでしょう。この豊沃な資源と同様に、すぐれた音楽家を多く輩出しています。ギレリス、ホロビッツ、リヒテルなどのピアニスト、オイストラフ、スターン、ミルシテインなどのバイオリニスト、作曲家プロコフィエフ等、枚挙にいとまがありません。ただそのほぼ全員がヒットラーやスターリンに迫害されアメリカやイスラエルなどに移住し活躍されています。また第二次世界大戦中にキーウ近郊バビ・ヤールでナチスによる大虐殺を受け、昔から紛争の絶えなかった地域です。この事件を題材にしてショスタコ―ビッチは交響曲13番を創作し、暗く陰鬱な曲想によって民族の悲哀と迫害の偽善性や無意味さを表現しました。

「カルメン」の内容は周知のことなので詳しくは触れませんが、妖艶で美しい「カルメン」は自由で移り気なジプシー女で、これに翻弄される純情で一本気な竜騎兵の伍長「ドン・ホセ」が主人公で最後にはカルメンを刺し殺すのです。人が死ぬため「悲劇」として扱われますが、アリアが少なく「闘牛士の歌」や「ハバネラ」「カルタの3重奏」の舞曲風の歌、フルートとハープの美しい「間奏曲」などが有名で、すぐに口ずさみたくなるような「大衆性」に溢れています。

ウクライナ国立歌劇場による「カルメン」パンフレットより。最後のカーテンコールでは自由に撮影をしてよいと指示されていた。また「ブラボー禁止令」は出ていなかったので、以前の盛り上がりが感じられた。

もう一つは英国ロイヤルオペラハウスによるベルディ作曲「アイーダ」です。これは映画館での「ライブビューイング」として観ました。といっても2022年10月の上映の収録なんですが、ロバート・カーセンによる現代の軍事情勢を彷彿とさせる新演出で非常によくできていました。原本では古代エジプトを舞台にエチオピア人奴隷のアイーダがエジプトの将軍ラダメスへの愛と祖国愛の間で引き裂かれる悲劇です。カーセンは軍事力を行使する架空の大国を考案し、エジプト王(どこかの国家元首に似ていました)とその娘はそれぞれ明るい青、真紅のブランド服を身にまとっていましたが、その他の全員が軍服に身を固め、実際の戦争の映像を背景に映しだしていました。掲揚される国旗も赤と青地に白い★です。サッカーワールドカップなどで聴かれる「エジプト軍の凱旋場面」は大国の軍事行進を模倣し、最後に逮捕されるラダメスとアイーダは核兵器が収納されている地下室に生き埋めになります。ちなみにこの時のラダメスはTシャツのような濃い緑の軽めの服装でしたが、左胸の文様があるのかはっきり見えませんでした。 今回、新型コロナ感染に翻弄され、またロシア軍侵攻の只中にあって来日されたウクライナ国立歌劇場の公演と、大国を果敢に皮肉った歌劇「アイーダ」を観たことは得難い貴重な経験となりました。

ライブビューイング「アイーダ」 パンフレットより

みなさん 明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

昨年クリスマスの時期には山陰地方で2回も大雪に見舞われ不自由な休暇を過ごしていましたが、今回新春に相応しい話題で新しい年を迎えたいと思います。

昨年12月に鳥取市で「Next Generation」という次世代アーテイストを発掘するコンサートが開催されました。対象は鳥取県在住のバイオリンを演奏する中学生、高校生で、難曲に果敢に挑戦されていました。中でも2022年10月に第43回全日本ジュニアクラシック音楽コンクールの弦楽部門で第1位となった米子市淀江中学2年生の坂口碧望さんは、バッハ「無伴奏パルティータ」とモンテイ「チャールダーシュ」を弾いておられました。受賞のことをその直前に新聞で知ったばかりで、目の前で本人の演奏が聴けるとは思ってもいませんでした。その他の演奏家もパガニーニ「カプリス」、サンサーンス「死の舞踏」、モーツァルトやシベリウス協奏曲など、素晴らしかったです。また前月号で紹介した「第九」のコンミスであった、湯淺いづみ(バイオリン)と岸本聖華(ピアノ)、福本真琴(チェロ)による若手アーテイストトリオによる、メンデルスゾーン「ピアノ三重奏」も均整がとれており、しかも情熱的な演奏で感動しました。

2022年12月鳥取市で行われたNext Generation:若きアーテイストたちの夢の響演

音楽関係に限らず若手の活躍ぶりは目覚ましく、12月には日本新聞協会主催第13回「いっしょに読もう―新聞コンクール」小学生部門最優秀賞を鳥取県岩美北小6年生、森川暖人君が受賞していました。5万7千人の応募からの最優秀賞です。内容は「化学物質過敏症」に関するもので、柔軟剤やシャンプーの香りなど、日常ある様々な化学物質に反応して体調を崩すことを調べたものです。将来はこの方面の科学者になるのが夢であると言っており頼もしい限りです。(2023.1)

ウサギ年

地酒銘柄 
鳥取県の日本酒蔵元。鳥取県酒造組合パンフレットより
日本酒を飲むウサギをあしらった
神話「因幡の白兎」で有名な鳥取市「白兎(はくと)海岸」 鳥取市観光協会HPより (2023.1)

外科希望の学生教育

 以前から外科の領域では若手医師を育もうという試みが全国的に行われています。こちらでは年に2回山陰外科集談会が行われ山陰地方の外科施設から発表されます。今回は昨年12月に島根大学医学部で開催され、一般演題以外に島根大学と鳥取大学の学生や研修医からなるセッションが組まれ、両大学の外科系教授で当日出席した6名で評価しました。その内容として、研究を行うに至った「背景」、対象の選び方、研究の方法と分析方法が妥当かどうか、結果とそれを支持、或いは相反する他の研究との比較、今後の診療にどのように役立てるか、など的確に発表できたかどうかを採点するのです。また幾つかの質問に適切に回答できたか、現役の医師でも難しいと思われます。このような試練の中、当消化器小児外科に研究室配属で来ていた医学部3年の学生が表彰されました。

3年生と言えばやっと基礎医学の講義が終わり臨床医学の講義が始まったばかりというところですが、「消化器癌の予後を左右するCachexia(悪液質)Index」というテーマで、実際の手術患者のデータを解析し、現役外科医よりも堂々と立派に発表していました。その他医局内で行った抄読会では「Science」という一流の雑誌から「大腸がん発生に関係する腸内細菌」についての論文を紹介してくれ、実験や研究解析の手法の説明も詳しく、私の学生時代と比べて遥かに優秀であると思われました。

2022年12月に島根大学医学部で行われた「山陰外科集談会」 優秀賞にて表彰される鳥取大学医学部3年生

芸術や医学に限らず、スポーツ、ビジネスなど色んな分野でこのような「若い力」を育成し、その成長を見届けるのは楽しく嬉しいものです。(2023.1)