第32回日本腸管リハビリテーション・小腸移植研究会

 ①2020.3福山➡②2020.3.大阪➡③2020.8.大阪➡④2020.8大阪とWEBハイブリッド

 2020年8月8日、大阪千里中央にて「第32回日本腸管リハビリテーション・小腸移植研究を現地開催とWEB会議併用のハイブリッド形式で主催しました。当初は福山医療センターにて昨年3月に行う予定でしたが、新型コロナ感染の全国的な流行に対して会議やイベントを取りやめる規制が国や自治体から一斉にかかったため一旦中止・延期しました。感染は一旦収束するかに見え順調に研究会の準備を進めていましたが、7月頃より再び陽性者が増えるようになり、現地とWEBでの開催を併用することに四たび変更せざるを得なかったわけです。二転三転した苦労話を聞いてください。

大阪現地での様子。協力頂いた大阪大学小児成育外科の方々と。

 通常、学会・研究会は遅くとも2-3年前から主催者(学会長)が自薦や他薦で決まり、ここから開催日時と場所、テーマなどを決めて行きます。私が今回の主催の推薦を受けたのは2018年の研究会の時で、小児外科井深奏司医師を事務局長として医局秘書の岡佳織さんにも手伝っていただき、翌2019年初めから本格的に計画しました。2019年3月慶応大学における研究会では福山での開催を大々的にアピールし、会員一同鞆の浦での温泉と景勝地を楽しみにされたものです。これらは岡さんが準備してくれました。ところが、その年の秋になって私の鳥取大学への異動が急遽決まり、2020年の3月に大阪で開催することに変更しました。その頃には演題募集やテーマ、招待講演なども決まっており、図4のような看板も既に出来上がっておりました。しかしながら、大阪の会場を押さえ、演題も集まりプログラムもほぼ完成した矢先に、「新型コロナ感染」の騒動で、イベントや集会に対する規制がかかり、やむなく中止、延期しました。その後は上記のごとくで、最初現地開催を予定していましたが、特に東京の人が病院の規制などで動けないということで、現地とWEBのハイブリッドにしたわけです。

最初、福山医療センター主催で行う予定であった。

今回、小児外科、看護部、栄養管理部、薬剤部、臨床心理士、ソーシャルワーカー、リハビリテーション部からの演題発表や参加者を多く得ることが出来、多職種チームによるワークショップを設け意義のある話し合いが出来ました。福山医療センターからは外科病棟の松井みのりさんや小児外科井深先生の発表がリモートで聞けて嬉しかったです。国内における「腸管リハビリテーションプログラム」は、鹿児島市立病院や東北大学、九州大学、大阪大学で既に立ち上がっており、患者登録やガイドライン作成、教育や協力体制の確立など、今後の飛躍が期待されます。また、研究会の奨励賞には福山医療センター小児外科の児玉匡先生の論文が選ばれたことを付記しておきます。

今回新型コロナウイルス感染流行の間隙を縫うようなかなりチャレンジングなものの、会場でのリアルな熱い討論や懇親会での親睦も出来ない白けた研究会になりましたが、考えられる限りの感染対策を行いその結果感染者は発生していません。それよりも逆に新たな知見が多く得られ、新型コロナに対する脅威を遥かに凌ぐ実りの多い研究会であったと思います。県境を越えた移動制限のような根拠のないやみくもな規制をするのではなく、ウイルスの性質に基づく伝搬経路を医学的に緻密に検討し、ピンポイントの対策をすることが本当に必要な政策です。卑近な例では、国内での自動車事故で年間3000人が死亡していますが、自動車を無くせば死亡は無くなりますが、自動車の無い生活は今や考えられず、飲酒運転やスピード違反の取り締まりなどの基本的なルールを守れば、通常の経済活動が成り立ちまた個人の生活も楽しめるわけです。また受動喫煙が原因で国内年間15000人が死亡していますが、他人の煙草の煙を吸わないなどの対策をしております。今年もコロナ等に負けないで頑張りましょう!!

最後に、福山医療センターのスタッフを初め、ご協力を頂いたすべての方々に深謝いたします。(2021.3)

コロナ禍での出来事

このような中、私の最近起こった体験談をお話しします。

 正月には外出禁止令が出ていたので行けなかった墓参りに、陽性者数が少しおさまりかけた1月最後の週末に兵庫県の実家に一人で行き、その帰りに神戸の「〇将」でご飯を一人で食べていました。丁度餃子が来た時に、隣のテーブル席にいたお子さん(後から聞くと心室中隔欠損症を持つ1才半の男児)が突然意識がもうろうとし、チアノーゼも出てきたため、そのお父さん(神戸市内の某医療センターのマイナー科の医師)が床に子供さんを寝かせ、ほっぺたをたたいたり心臓マッサージを始めたのです。その時、私の脳裏には鳥取大学の他部署の教授たちから「先生がコロナに感染したら病院は無茶苦茶になりますよ」「学生にはきついことを言っているんやから先生は変なことせんといてくださいよ」と、戒められたことが一瞬よぎりましたが、次の瞬間には子供を抱き上げ椅子に寝かせて蘇生のABCを始める自分がいました。順にA(airway 気道確保)、B(Breahing人工呼吸)、C(Circulation心臓マッサージ)と続くのですが、まず大腿動脈が触知することを確認し、Chin upポジションにし(頸部を真っ直ぐに下顎を挙げて喉頭まで空気を通りやすくし、首や顎の柔らかい小児には有効)、次に私の右手を筒のようにして、1-2回息を送り込むと直ぐに意識は回復し全身がピンクに変色しました。父親が手配した救急車に乗せ、その後未だ冷めていない餃子を三密を避けながら一人でゆっくり頂きました。

鳥取大学では山陰を出る時には「出張届:場所、期間、目的、理由」を提出し、帰ってからは「報告書:上記に加え、現在の体温、症状の有無、滞在中に会議や集会で3密があったかどうか、複数人数で会食を行ったか」を出します。感染対策室に直ぐに報告するとともに、2週間の健康チェックなどを行い、3週間を超える現在までコロナ感染を疑う症状や反応は出ていません。医師である父親に何かの時にと名刺を渡しておいたのですが、その数時間後に資料のような感謝のメールが届きました。医師免許や看護師免許等をもつ我々医療従事者には、飛行機や新幹線の中で「病状の悪い乗客がおられます。お医者様か看護師の方、もしおられれば客室乗務員にご連絡ください」というアナウンスが流れますが、それに対応する義務や規則はどこにも明記されていません。が、私の答えは父親のメールの通りでした。

独自の政策を出す政治家や珍しいケースをレポートして視聴率や読者数を確保しようとするマスコミは、それぞれの立場で必死で対応されていますが、2月13日から「コロナ対策法-まん延防止措置」が施行されており、かえって不安を煽るような結果になっていないか検討して、レアなことにこだわらず、大きな視点で国民を指導していってほしいと思います。かつて、ハンセン病(らい病)は人に伝染する病気として恐れられ、隔離政策がとられていましたが、現在では感染するリスクはほぼ皆無であるという見解です。また、自分でミトコンドリアを持ち体外からの養分を取り込んで自己増殖できる細菌とは異なり、ウイルスはDNAかRNAという遺伝子しか持たない極めて原始的な生物ですので、自分だけでは生きることが出来ず、必ず他の細胞内に入って増殖します。「気持ちを引き締める」ような精神論だけでなく、このようなウイルスなどの医学的な知識を最大限に活用したピンポイントの対応を望みたいところです。(2021.3)

小腸の働き

 腸管は口腔、食道、胃、十二指腸、小腸、大腸、肛門から成りますが、栄養素の90%は小腸で吸収されます。口から入った食物は唾液や胃液、膵液の中にある消化酵素で分解消化されます。つまり糖質(炭水化物)はアミラーゼ、蛋白質はペプシンやトリプシン、脂質(中性脂肪)はリパーゼにより分解されますが、最終的な単糖類やアミノ酸、脂肪酸とモノグリセリドなどの低分子栄養素とビタミン、塩類、水分、他の微量栄養素などは小腸粘膜から吸収されます。小腸粘膜には多数の輪状ひだがありその表面は絨毛に覆われ、さらに微絨毛が密生し吸収面積を広げています。成人男子の小腸の吸収総面積はテニスコート一面にあたるとされています。

小腸粘膜の断面図。輪状ひだ→絨毛→微絨毛と吸収面積が広がる。

 このような小腸が生まれつき短い、或いは色んな病気で大量に切除してしまわないといけない患者さんがおられます。小腸が通常の25%しかない短腸症候群ではその80%は新生児期に手術を受けた小児で、低出生体重児にみられる壊死性腸炎や腸軸捻転、腹壁破裂などがあり、他に腸が蠕動しにくい病気や成人の炎症性腸疾患もあります。このような場合にはミルクなどの経口摂取が出来なく下痢などがおきるために、静脈栄養といって点滴からの栄養や水分を補わないと維持できなくなります。腸管不全患者さんでも腸を使った栄養を行うと徐々に腸が馴染んできますが(適応)、長期に静脈栄養を行うと点滴する静脈が無くなったり、カテーテルの感染や腸管内に細菌が増殖したり、肝臓の障害が起こります。ひどくなれば小腸移植が必要になりますが、小腸には病原体が多くまたリンパ組織が豊富なため長期的にも拒絶反応がおこりやすく、肝臓などの移植ほど良好な結果ではありません。このため、腸管不全患者さんに対して色んな治療、輸液やカテーテル管理、薬物治療、外科治療を色んな角度から多角的に検討するという多職種による腸管リハビリテーションプログラムが1990年代から欧米を中心に設立され、小腸移植もその1つの治療法と位置付けられるに至りました。(2021.3)