水圧におもふ

水圧といふを見てをり樋を抜きし水は噴き出て光り躍らす
堪へゐて静かな池と見てゐしが抜かれたる樋に噴き出られる30
静かなる村の人等も密密と押し合ふ力の日々にあるべし
放たれしものの輝き抜かれたる樋よりはしれる水は躍りぬ
旅の恥かき捨てといふ言葉あり解放されしよろこびを言ふ
大きなる貯水は大きな圧力をもちたりダムのえん堤おもふ
かぎりなくふくれてゆける近代の耐へ得ぬ心生むにあらずや
足の爪も自由を与へてやらんかな靴を脱ぎてつっかけをはく
残りなき命と思ひ開きたる本は暫しに新聞寄せぬ
流れゐし輝く雲の消え去りて隈なく空の青澄みとほる

碁の本は若き名前の多くして歌は知りゐてながきが並ぶ
一時間幼が居りし跡として砂場に砂の橋のかかれり
お土産と砂で作りすぃ饅頭を手に載せ幼は帰ると言ひぬ
こめかみにふくれて来る血管あり内のこはれしものを循らす
秒針の代りに人形動きゐて文明とふは目を疲らせる
踏みつけし野径の花よふりかへり傷み抱ける歩みを運ぶ
のろのろと立ちたる猫はにらむ目に見返り急ぐにあらず去りゆく
領域を犯されし目が立上り猫はしばらくにらみて去りぬ
並び立つぜいをつくせし太柱われの祖先は柱担ぎし
夜の山は大きく黒く横たはり眠れる家の灯りを抱く
時折りに猫の日向に寝てゐしがおのが棲家の如き目となる
百年の木蔭は涼風運びゐてはるかに稜線青く連なる
斂葬に昭和終ると書かれをり香淳皇后一人の死去

信号の赤と時計をくらべつつ会場はもう開いたか知れぬ
針金に止められてゐる標本箱色鮮かに蝶は飛ばざり
鮮かに蝶が拡げし翅の色恫喝として見ねばならぬか
鮮かな模様は恫みし生きんため標本箱に蝶の並びぬ
そそり立つ木のいただきに羽根休めとびは飛翔の空を見廻す
天辺の枝に飛びゐし羽根休め鳶は力の限りを見渡す
足音にすばやく魚の沈みゆきこの池釣りに来る人多し
光る迄白く晒れたる枝萱の此処等で腐ねば障りとならん
くっきりと我と過去へと区切りゆくIT革命とふを読みをり
来るべきアイテイ革命に区切らるる如何なる姿勢我はもつべき
大学へ進むが既定のごと孫等我は鎌売と決められてゐし
暫し経て浮び来れる魚のあり水に振りゐるひれのしたしさ
浮び来し魚は動くとあらずしてひれをかすかに動かしてをり
魚が水泳ぐごとくに生れたる歌の一首の我にありしや
魚泳ぐ水とはなりて安らげる瞳となりし我に気付きぬ
うねりたる鱗に魚の泳ぎゆき掴みたる手の記憶鮮らし

はしる魚少年我の鼓動との動き一つにありたりし日よ
年々の力を今も蓄めてゆく大きなる木の芽吹きを仰ぐ
むくむくと擡げしゐくちのどうさい坊蹴る力失せて歩みゆくかな
言葉もて石に刻まるものの為路傍の石に両手を合はす
風の吹きくるままに葉を散らし大きなる木は晩秋に立つ
新しき知を容る体とならんため癒さん薬をのみ込みゆきぬ
力ある限りを学びそれを容る体とならん癒えゆく躯
死の灰の中より飛び立つ白き鳥束後は詩神の羽根が抱かん
点となりて飛びゆく鳶のあり瞳の遠くわれを立たしむ
谷鳴りに神去りゆきし空眺めしをれる葉は埃を被る
ピンと張る弦にいのちに生きたりと八十年を自負もちて立つ
するめ噛む歯応へのみが確にて今日一日の終らんとする
入道雲わが家の上迄伸びて来て稲田に乾く亀裂の入る
映像は思ひ出写しわが脳の新作とぼしくなり来るらし
真直ぐに向けぬ瞳は包みごともつらし孫の肩まるまりぬ

憎まれてげじの走れり憎めるは人の勝手とげじの走れり
刺す針をもちて生れれば刺すことの正義にあらん輝く蜂は
足多きげじの走れり足多き故に箒もて殺されにけり
石垣に大きな石の積まれをり運びし人は眠りてゐしや
影深き草より夏の羽虫飛び野より生れたるわれとなりゆく
今日の記事載る新聞をたたみゆく明日は如何なる記事をもつ
仮借なく枝を落としてより多き結実はかる剪定終る
配られし朝の新聞たたみをり読みしニュースは最早要らざる
烈日を反せる黒と黄のひかり蜂は灼けたる屋根に飛び交ふ
殺傷の無残の記事を読みおへて靴下をはき会ふ人浮ぶ
読みし後は他人の事とほうりゆき保険代金に思ひめぐらす
雨降りし朝の草は天を向き日照りのながく続きてゐたり
渇水の池の堤に人集ひ行きつ戻りつ指を指しをり
如何に自己の売込みなすがセールスの要諦具に説かれてゆきぬ
自己を売れおのれも亦魅力あるとなれとセールス??として

商品とおのれがなる術説かれ終へセールスマンの会場を出ず
商品になりきり販売はじまると新入社員耳をそばだつ
商品となりきりはじめて勝ち抜けるとかくて人間より疎外されゆく
南北の朝鮮対話をはじめたるこれもITのつくる世界か
日日に水の減りゆき水なくて行き得ぬ魚の並びあぎとふ
照りつづき生きる水域狭まるを魚にてあれば狂はずにをり
照りつづき生きゐる場所の狭まるをゆるゆる泳ぐ魚にかへれ
悪童を斬る舞伝へ開拓は蝮とたたかふ業にてありき
雑事より放れたる目は夏の木の重なる影にいこひゆきたり
日本の湿地は蝮多かりき拓きて何処も蛇神祀る
人間は胎児の時に尾をもつと雄の心の竟に消えざり
数知れぬ蝮を殺し数知れぬ人殺されて田畑拓きし
蛇神の祀りにうめし数知れぬ消えてゆきたる命を思へ
三十五度の気温予報見しのみに気たゆき体の思ひのありぬ
尻餅を今日はつきゐて弱れるを老ひゆくものの正常とする

殺さねば殺さる戦生きゐるはおのれ生きゆく手足の動く
蝿一つ夜のたたみに止まりゐて近しき命分ちあへるも
蝿一つたたみの近きに止まり来て更けゆく夜はそのままにをへ
かつてわが走りし記憶青年の躍れる腿と木蔭に消えぬ
伸ばしゐる青ひたすらに稲の葉は降りくる夏の日差しに向ふ
携帯を出してながなが語りをり公衆電話と変らぬ笑ひ
置き去られる情報社会と思ひしが携帯電話の笑ひ変らぬ
われと子のグラス合せり離れゆく過去と未来の鳴る音立ちぬ
離れゆく親子の世界充たされしビールのグラスが触るる音立て
全員死亡予想なしゐし事ながら発表されし記事読みふける
類人猿樹より降りたる日の如くどんぐり坂を転がり来る
草ら皆枯れて沈みし水おもて白く?めたる波生れつづく39
切線のなきところより椀かれたるちり紙をしばし黙して眺む
子は親を離れゆくべく生れたり帰省せる子とグラスを合はす

若き日は考へさらし運命が思ひの中にのしかかり来る
偶然の思ひが老ひと増して来て生まれしことに思ひの至る
偶然の生と思へば神の他至りつき得ぬ命なりけり
何ものの運びて今日のありたりし酔ひたる夕の躯を任す
影の下に影あり光りの上に光りあり波紋は水の底にゆれゆく
闇に目の押れて来りてそれぞれにおのが形をもちてをりたり
水底にゆれゐる影と光りあり風に起れる波の届きぬ
目が覚めて痛み癒へたる手を振りぬ眠りて体は己れ整ふ
目が覚めて差し入るさやかな光り見あり眠りて体は己を癒す
背のこごみそりかへり亦こごみゆき薬かかりし蟻の死にたり
遠くより来りしものに騒ぐ血の未だ残りて小包み受くる
遠方と言ひける未知をひざにのせ包のひもを鋏に切りぬ
はるかなる距離を縮めて小包の結びしひもを切りてゆきをり
どの頬もふくらみ豊かに写されて不幸の歌を詠むとは見えず
不幸なる我と言はんにベルトの穴一つ増やせる腹をもちたり
幾世代人の生き死ぬ二千年大賀の蓮はピンク鮮らし

休もうと思ふ短歌のうかび来て幾多郎開きしままに進まず
夜の間に出でたる稲穂休むなくおのれはぐくむものを見てをり
多すぎし肥料に実入り拒みたる稲なり白穂直ぐく並びぬ
乾きたる砂より水を集めゐて咲きたる百合の白く艶もつ
水の気のあらぬ砂地に艶をもつ真白き花を百合の掲げぬ
咲くために乾く砂より集めたる水が真白く百合の咲きたり
真白なる小さき花を一つ着け乾ける砂に百合の咲きたり
全てなど安易に言へる男あり耳の底ひの澱と沈みぬ
反りくる谺を応ふる声として昔の人は山を怖れき
一粒の砂なる我と思ひ見る積みしダンプの木蔭に曲る
下の葉は枯れつつ乾く砂に伸び百合は真白き花を着けたり
歩みゐる背中の撓ひおのずから猫は繁れる木の間過ぎゆく
入道雲山を離れて白く浮き吹きくる風のややに冷えたり
草の根はからまりあひて土深く負けてはならぬ伸びを競へり
幼少壮老と過してわが命完成せざる不束にして

長生きをせよと言ひをり幼少壮老と過して完結成らず
幼少青壮老を生きて残がいの惨を過ごせと人の言ひをり
似たような歌を毎月並べゆき長谷川利春ポストに入れる
脱ぐ殻の下に生えゐる羽根のあり蝉は飛翔の変身をもつ
殻脱ぎし蝉は生えゐる羽根をもち空の高きへ飛びてゆきたり
這をりし蝉と殻脱ぎ飛翔する蝉を結ばん思ひ至らず
疑はずバス停迄を急ぎをり人が構へし世の中として
飯を食べ排便終へて新聞読み篭へと捨てて靴をはきたり
脱がむ殻我も持ちゐて果しなき空へ飛翔の瞳を向けたり
久し振りに幾多郎を読む光明を放ちて並ぶ一粒の文字
世の中を己が思索の体系に見んと幾多郎死ぬ迄努む
一章を漸く読みぬ渾身の力で向ふことの清しさ
わが命開きてくれる一々の文字に呼吸整ひてゆく
幾重にも脱ぐべき殻をもちゐると過ぎたる人の労苦のありぬ
幾重にも脱ぐべき殻は先人の労苦の跡ぞ守りゆくべし
蝉脱と悟りを言ひをり如何ならん変化を裡にもちゐる人ぞ

2015年1月10日