中世のひとみしずかに浄土堂ふきたる屋根のながくのびたり
ゆるく反りひとみ果てゆく展び長き屋根は静かな息に見るべし
光り入る化粧屋根裏塗れる朱の限りもあらぬ高き翳なす
かなしみの底ひにすまふ目の細く阿弥陀如来は立ち給ひたり
喜びも悲しみも底深くしてあるともあらぬ笑まひをふふむ
印相は如何なる意味をもつ知らず結べる指のふくよかにして
死するべき肉に見出しとこしえの笑まひかすかに立ち給ひたり
生き死にを越えしししむら刻みたるいにしえ人にかへりゆくべし
肉丸き指のしなひにそう瓶をもちたる像は雲に乗りたり
一刀に三拝したるいにしえの人を顕たせる仏像の前
とこしえのすがた願ひし一度の刻みは三度伏して祈りし
ひと度の刻みに三度拝めるを我こそ思へとこしえ思へ
雲に立つ三尊像の背後より我等に射さん光り入り来る
肉親が殺し合ひたる鎌倉の冥想ふかし菩薩の面は
父子背き干か交ふるかなしみに内を見つむる菩薩彫りたり