コロナ禍での出来事

このような中、私の最近起こった体験談をお話しします。

 正月には外出禁止令が出ていたので行けなかった墓参りに、陽性者数が少しおさまりかけた1月最後の週末に兵庫県の実家に一人で行き、その帰りに神戸の「〇将」でご飯を一人で食べていました。丁度餃子が来た時に、隣のテーブル席にいたお子さん(後から聞くと心室中隔欠損症を持つ1才半の男児)が突然意識がもうろうとし、チアノーゼも出てきたため、そのお父さん(神戸市内の某医療センターのマイナー科の医師)が床に子供さんを寝かせ、ほっぺたをたたいたり心臓マッサージを始めたのです。その時、私の脳裏には鳥取大学の他部署の教授たちから「先生がコロナに感染したら病院は無茶苦茶になりますよ」「学生にはきついことを言っているんやから先生は変なことせんといてくださいよ」と、戒められたことが一瞬よぎりましたが、次の瞬間には子供を抱き上げ椅子に寝かせて蘇生のABCを始める自分がいました。順にA(airway 気道確保)、B(Breahing人工呼吸)、C(Circulation心臓マッサージ)と続くのですが、まず大腿動脈が触知することを確認し、Chin upポジションにし(頸部を真っ直ぐに下顎を挙げて喉頭まで空気を通りやすくし、首や顎の柔らかい小児には有効)、次に私の右手を筒のようにして、1-2回息を送り込むと直ぐに意識は回復し全身がピンクに変色しました。父親が手配した救急車に乗せ、その後未だ冷めていない餃子を三密を避けながら一人でゆっくり頂きました。

鳥取大学では山陰を出る時には「出張届:場所、期間、目的、理由」を提出し、帰ってからは「報告書:上記に加え、現在の体温、症状の有無、滞在中に会議や集会で3密があったかどうか、複数人数で会食を行ったか」を出します。感染対策室に直ぐに報告するとともに、2週間の健康チェックなどを行い、3週間を超える現在までコロナ感染を疑う症状や反応は出ていません。医師である父親に何かの時にと名刺を渡しておいたのですが、その数時間後に資料のような感謝のメールが届きました。医師免許や看護師免許等をもつ我々医療従事者には、飛行機や新幹線の中で「病状の悪い乗客がおられます。お医者様か看護師の方、もしおられれば客室乗務員にご連絡ください」というアナウンスが流れますが、それに対応する義務や規則はどこにも明記されていません。が、私の答えは父親のメールの通りでした。

独自の政策を出す政治家や珍しいケースをレポートして視聴率や読者数を確保しようとするマスコミは、それぞれの立場で必死で対応されていますが、2月13日から「コロナ対策法-まん延防止措置」が施行されており、かえって不安を煽るような結果になっていないか検討して、レアなことにこだわらず、大きな視点で国民を指導していってほしいと思います。かつて、ハンセン病(らい病)は人に伝染する病気として恐れられ、隔離政策がとられていましたが、現在では感染するリスクはほぼ皆無であるという見解です。また、自分でミトコンドリアを持ち体外からの養分を取り込んで自己増殖できる細菌とは異なり、ウイルスはDNAかRNAという遺伝子しか持たない極めて原始的な生物ですので、自分だけでは生きることが出来ず、必ず他の細胞内に入って増殖します。「気持ちを引き締める」ような精神論だけでなく、このようなウイルスなどの医学的な知識を最大限に活用したピンポイントの対応を望みたいところです。(2021.3)