医師とピアニストの二刀流

 名古屋大学医学部を卒業し現在研修医として勤務する沢田蒼梧医師は前回のショパンコンクールで反田恭平氏、小林愛美さんたちとともに入賞しています。医師とプロのピアニストの「二刀流」を目指すとのことで、頼もしい限りです。しかも小児期に喘息に悩まされ、将来は小児科医になりたいと語っています。

(2024.6.29)

子ども食堂

 先日鳥取大学医学部の学生と話をしていたら、「猫手Necote」というボランティアサークルが活動していることを聞き、早速取材に行きました。サークル部員は30人くらいおり、医学科や看護学を専攻している学生達から成り立ち、大学近くの一般社団法人「手と手TetoTe」といういわゆる「こども食堂」で活動しているとのことです。家庭や学校で居場所のない小学生から高校生までの子供たちとゲームをしたり、宿題を手伝ったり、食事を一緒にして「手と手をつなぐ」活動をしています。最近、「子ども食堂」は全国的に多くみられるようになりました。ここは家庭でも学校でもないもう一つの居場所。子供たちがそのままの自分で居られる場所を見つけるということですが、本来は家庭や学校で築くはずの自分のアイデンティティがそれ以外の場所でしかできないというのはちょっと違和感を持ってしまいます。家には遅くまで仕事で帰らないお父さんとお母さん、塾に行かされる自分など、現代日本の歪んだ構造が見えるような気がします。部長の大〇周君(医学科6年生)は兵庫県姫路市の高校の時から将来的には小児科医になりたいと猛勉強をして、鳥取大学医学部に現役で合格されています。「TetoTe」には不登校や発達障害など様々な問題を持つ子どもも集まって来、喧嘩もおこるが、まずお互いの話をしっかり受け止め、もがきながら大きくなっていくこどもの成長を「猫の手」のように、支え寄り添えるようになりたいと述べてくれました。将来良い小児科医になってくれることでしょう。

(2024.6..29)

米子市にある子ども食堂「TetoTe」

小児外科医のモチベーション

 先日、鳥取大学医学部学生に対して消化器・小児外科の医局説明会が行われ、私も「小児外科医のモチベーション」について話しました。外科が扱う病気で大部分を占める成人領域の多くの疾患は悪性腫瘍ですが、これとは異なり小児外科疾患の殆どは胎児期における器官形成過程の異常により起こります。つまり最初唯一つの受精卵が分化し各器官に形成されますが、その時の異常が原因で例えば先天性食道閉鎖症は食道と気管の分離不全により起こります。この食道閉鎖症といえば、歌手の椎名林檎さんは生まれてすぐにこの病気と診断され慶応大学病院で手術を受けています。慶応大学に小児外科医がいてすぐに手術したため、命が助かっただけでなく、現在のシンガーソングライターとしての椎名林檎さんがあるわけです。食道の手術後によくある声帯を動かす反回神経の麻痺によって声がかれることもなく、歌手として活動出来ているのです。慶応大学主催の学会の時にゲストとして来られましたが、慶応の小児外科医たちはみんな口々に「私が手術を担当しました」「術後をずっと私がみていたのです」と言うのです。これはすなわち椎名さんの手術に対して自負心や誇りを持っているということだと思います。このように小児外科医はこどもの病気を治すことはこどもの未来をつくる」という重要な使命を持っているのです。身近な例では医学部5年の学生が昔、私が阪大病院にいた時に、動脈管開存症の手術を受けたようで、これがきっかけで医学部を選択したといっています。もう1人の医学生はp63遺伝子(細胞周期やアポトーシスを制御し形態形成に関与する)の欠損による外胚葉系の異形成を主とするEEC症候群を合併し、先天的に両手の第3指が欠損、両足の第2,3趾が欠損、口唇口蓋裂があり、全身麻酔だけでも10回以上手術したようです。彼は幼少時代にいじめにあっていたようですが、「それが何やねん。お前らを見返したるわい」と頑張り現役で鳥取大学医学部に入学され、また高校からバスケットやゴルフをされてきました。小児外科医を目指してくれるようです。

 手術を受けた後成人ならぐったりしてなかなか起きれない、歩けない状態が長く続きますが、小児は大きな手術を受けても術後早期から病棟内をウロウロ動き回ったり、テレビゲームをピコピコやりだしたりして、また成人のように糖尿や高血圧などの他の合併症も少ないため、回復力は極めて強いのです。このような強大な小児の生命力と成長や発達能力の凄まじさに目を見張るものがあり、逆に彼らから『元気』をもらいこれが小児外科医のモチベーションになります。2021年東京パラリンピックにて水泳部門でいくつかのメダルを獲得した先天性四肢欠損症の鈴木孝幸さん、先天性小眼球症による視覚障害のために楽譜を全て聴覚でのみ理解、暗譜し、若干20才にてアメリカ・クライバーンピアノコンクールで優勝した辻井伸行さんなど、「失った機能を他の器官・臓器で代償する人間の能力には計り知れない」ものがあり、若い程その効果がよく発揮されます。さらに上記医学部学生のようにハンデイをはね返し、むしろポジティブに捉えて頑張る「若い力」を育成し、その成長を見届けるのは楽しいし嬉しいものです。

(2023.6)

見逃し配信

コロナ対策として、他人と接しないようにという政策がとられて来ましたが、ある番組で「ヒトがヒトと群れる時には脳の報酬系が働き快楽物質であるドーパミンが出て幸福な気持ちになるが、長期にヒトから離れ孤立するとこの報酬系が低下し、対人恐怖が増加する。情報だけを共有しても感情の共有が出来ない」という趣旨のことを言っていました。このことが動物においても実験で証明されたというのです。確かに人間関係を築く上では弊害ばかりのような気がしますが、一方でテクノロジーの発達により極めて便利になったなあと思うことがあります。

その1つが各種学会などにおけるWEB会議と、私にとってはこの上なく嬉しい企画、ラジオやテレビの「見逃し配信」が大きく発展したことです。私はオペラやクラシック音楽ファンなので、これまでは聴けない観れない放送はオーデイオ機器を駆使して「留守録(1週間丸ごと収録する録画機なども出ていました)」に依存していましたが、時に「留守録忘れ」、「放送予定に気が付かない」ことが重なり忸怩(じくじ)たる思いをしたものです。それがこの「見逃し配信」では放送後1週間はいつでも聴けるわけです。例えば音楽番組は「NHKラジオ、らじる★らじる」では無料で1週間のほぼすべての番組が聴け、スマホでアプリを取れば大阪の地下鉄でも山陰本線の鈍行列車の中でいつでも好きな時間に楽しめるという、極めて有意義なものです。他にもNHKプラスではテレビドラマ、植物学者牧野富太郎を扱った「らんまん」「どうする家康」田中みな実主演の「悪女について」(有吉佐和子の原作は読んだことあります)など、どこでも無料で見れるし、他局やBS、WOWOWの番組もOKのようです。

(2023.7)

外科希望の学生教育

 以前から外科の領域では若手医師を育もうという試みが全国的に行われています。こちらでは年に2回山陰外科集談会が行われ山陰地方の外科施設から発表されます。今回は昨年12月に島根大学医学部で開催され、一般演題以外に島根大学と鳥取大学の学生や研修医からなるセッションが組まれ、両大学の外科系教授で当日出席した6名で評価しました。その内容として、研究を行うに至った「背景」、対象の選び方、研究の方法と分析方法が妥当かどうか、結果とそれを支持、或いは相反する他の研究との比較、今後の診療にどのように役立てるか、など的確に発表できたかどうかを採点するのです。また幾つかの質問に適切に回答できたか、現役の医師でも難しいと思われます。このような試練の中、当消化器小児外科に研究室配属で来ていた医学部3年の学生が表彰されました。

3年生と言えばやっと基礎医学の講義が終わり臨床医学の講義が始まったばかりというところですが、「消化器癌の予後を左右するCachexia(悪液質)Index」というテーマで、実際の手術患者のデータを解析し、現役外科医よりも堂々と立派に発表していました。その他医局内で行った抄読会では「Science」という一流の雑誌から「大腸がん発生に関係する腸内細菌」についての論文を紹介してくれ、実験や研究解析の手法の説明も詳しく、私の学生時代と比べて遥かに優秀であると思われました。

2022年12月に島根大学医学部で行われた「山陰外科集談会」 優秀賞にて表彰される鳥取大学医学部3年生

芸術や医学に限らず、スポーツ、ビジネスなど色んな分野でこのような「若い力」を育成し、その成長を見届けるのは楽しく嬉しいものです。(2023.1)

文献 検索

 最近では何でもネット環境が発達し簡単に調べることができます。我々が文献を調べる時、昔は図書館に行って重たい書物を台に載せてコピー機まで運んでいましたが、今では机上のコンピューターで直近に出た雑誌を閲覧することができます(図)。鳥取大学消化器・小児外科教室では毎週抄読会を行っていますが、大学院生たちは「Nature」「Cell」などを競って紹介しており私は赴任当初から驚いております。また私と共同研究して頂いている「生化学教室」で行われる時にはあらかじめ読むJournalが紹介されるのですが、ある時事前に回ってきた「Nature」のURLをクリックすると原文とともに少し拙い「和訳」が出てきたのです。うちの大学院生が和訳を読んでいるかは知りませんが、携帯で簡単に電車の中でも一流雑誌が読めることは素晴らしいことです。若い人たちにどんどん良い論文を読んで書いていって欲しいものです。また、原稿を書く際にも以前は指導者に真っ赤に直されて返って来たものをまた1から手書きで直す必要がありました。かつて大阪大学第一外科教室生化研のM先生の論文指導は厳しいことで有名で30回以上の書き直しは当たり前と聞きました。今でも私は科研費の申請書などは20-30回くらい手直ししていますが、前の文章が残るので昔の研究者と比べると努力ははるかに小さいのです。(2022.10)

雑誌「Nature」最新号電子版。「Cell」「Science」とともに3大自然科学雑誌とされる

2022年の大学入試共通テスト

 2022年1月に全国で大学入試共通テストが行われ、鳥取大学でも雪の中試験監督に教官が何人か借りだされていました。東京大学の試験会場では名古屋の私立T高校2年生が、他の人を切りつけるという事件が起こりましたが、犯人は医学部を目指しているとのことです。翌日試験速報が新聞掲載されており、実際に出題された生物基礎の試験問題を見て吃驚しました。図のように光学式血中酸素飽和度計(コロナ肺炎で最近有名になったパルスオキシメーター)や酸素解離曲線を扱った問題が出ていたのです。その他、植物からのDNAやRNA量の測定、地球温暖化、細菌感染の防御や皮膚移植の拒絶反応など多岐にわたり、実際の実験方法を問う問題も出ていました。医学部の学生でも解けないと思われるものもみられます。多くの医学部入試の理科では、物理、化学、生物の中から2科目を選択しますが、生物は高得点を狙えないので、かなりの受験生は選択しません。私も実は物理や化学を選んだのですが、理由として解答をシンプルに割り出すことが出来るため勉強し易かった印象があります。物理学や数学ではまず基本的な理論と法則があり、それにのっとって色んな事象を解決するというものですが、生物学は「生命現象」を研究する分野で、まず詳細な観察に基づいて基礎となる事象を明らかにすることが求められます。実際私たちは医学部では「発生学」「解剖学」「病理学」などの基礎医学分野で人体の発生現象や細胞の形態などを勉強し、臨床医学では病気の診断法や治療など膨大な情報を吸収して「医学体系」を構築することになっています。ところが、受験勉強でゼロかイチかをきっちり判別する方法に慣れていた私たちは最初曖昧とも思われる「生物学」には大きな違和感を覚えたものです。確か大学医学部1年生の時に「生物学序説」という授業があり、最初の試験で「体内環境のホメオスタシス(恒常性)」や「生態系」等に関する問いでしたが、私も含めて同級生の成績は惨憺たるものでした。進化論の権威、分子古生物学者更科功氏は、東京大学教養学部に在籍中同級生が「数学や物理は良いけど、生物学ってアホみたいだな」と言っていたことを著書で書いておられます。我々の頃は高校授業で理科には物理、化学、生物、地学全てが必修でしたが現在では必須ではない高校もあります。私の大学の同級生で現在大阪大学医学部病理学教授をしている仲野徹先生は著書の中で「一部の超エリート進学校では生物の授業を受けない生徒もいるとのことで、生物学は医学の基本でありますがこのような状況で医学部を目指して来る学生が多いのはこれで良いのでしょうか。このような学生が医学部に入って興味が持てるのでしょうか。」と嘆いています。

2022年度大学入試共通テスト生物基礎から

 また、先の事件に関して思うことですが、実際の医療現場では多職種の人とのチーム医療が大きなウエイトを占め、医師の資質形成に関して人とのコミュニケーション能力を学生生活で養うことが重要となります。大学医学部に入る前の高校生活や入学してからの「人との付き合い」が大事であったと今さらながらに感じています。大学受験時代に私が神戸の予備校に通っていたころは、予備校で知り合ったN高校やK学院高校の気の合う5人の友人達と模擬試験の後食事に行って、将来の夢や現在の悩みなど語ったもので、うち3人は医師になっておりいまだに交流があります。大学に入ってもクラブや実習仲間との交流が良かったと思います。ところが今や高校生活はコロナ対策で人間関係が分断され、授業はWEBを通して行われ直接の友達との触れ合いは出来ない状況です。もっと初期に人格形成を行うべき小学校や幼稚園では「おしゃべりはダメ」など、あまりにも非生物のウイルスを攻略することのみを重視し、現在は人との交流を摘み取るような対策が公然と受け入れられています。このような人的な交流の無い社会で個々人は試験の成績、偏差値のみを重視し、偏差値が将来の全てを支配すると考えるようになり、絶望につながる衝動と自分を抑えきれなかった上記の高校2年生も、ある意味コロナ禍の犠牲者といえます。(2022.2)

医学生物学研究の手法

 医学研究の手法について簡単に触れます。薬の効果や治療の結果が有意であるかどうか、信頼するに足りるかどうかの「テスト」方法です。図は「究極の食事」の著者カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)内科学助教授の津川友介先生によるエビデンス(科学的根拠)のレベルを示すものです。最も信頼度が高いのはメタアナリシスという文献のシステマティックレビューにて解析したものです。この手法は最近の薬剤師国家試験にも出題されており、「ある患者さんに薬剤を投与するのに、どれが最も有効かを論文検索によって調査する」のに応用することへの出題です(図)。この解析法の元となるデータは、研究方法の正確さや妥当性など、何人かの専門家によって査読された医学系雑誌に掲載された論文を多数集積して取りまとめ、特殊な統計的手法を使った研究内容になります。これに対し最も信頼性の薄いのが個人の体験談や専門家であっても患者さんのデータの統計学的解析に基づかない意見で客観的な研究ではないものです。一般に臨床試験ではまず仮説を立て、データを集積して統計学的に有意差を検定します。例えば「県境を越えた人の移動はコロナ感染のリスクとなる」という仮説を証明するためにはある一定期間内に十分な人数を集め①県境を越えて移動した群と②越えていない群に分けて、感染発症や検査陽性率の差を検定して行われます。2群をくじ引きなどによりあらかじめランダムに割り当てるのが「ランダム化試験」で、ある治療をしているグループを沢山集め、その結果を論じるだけの「観察研究」では他の因子が一定にそろっていないため患者さんのデータに偏りが生じ本当の効果が分かりにくいのです。特定の国や集団による偏りを削除するために複数個の研究結果をまとめたメタアナリシスが最も信頼度が高くなります。また比較試験では比較する元のデータ(対照群)が直近のものやかなり以前のものでは、例えば「水曜日としては過去最高である」とか、ピーク時を超えた時点と比べ「感染者数が10倍以上になっている」など正確な変動が分かりにくいものがあります。さらに得られたデータを故意に操作する「恣意性」なども気を付けなくてはいけなく、街頭インタビューなどで極端な例だけをピックアップしたり順番を変えたりなど、やろうと思えば簡単に操作できるところに落とし穴があります。 最後に、「新型コロナウイルス感染力の強さと毒性」について、ウイルスは自分の遺伝子を残す(細胞や核を持つ生物である細菌と異なりウイルスはDNAかRNAのみを持つ原始的な非生物)ことが最大の使命であります。そのために毒性を下げて感染力を高めて世界中に広がることを目論んでいるというのが本当のところかなという気がしますが、感染力が高いからと言って毒性が弱いとも言えないようです。絵の具の一滴を水に落とすと、勢いよく分散していきますが、最後は薄くなって分からなくなるように、コロナの脅威も消えていくことを祈りたいです。(2022.2)

津川友介氏による「エビデンスの階層」

第99回薬剤師国家試験問題:メタアナリシスの結果を示すフォレストプロットに関する出題

鳥取大学医学部の歴史

 鳥取大学医学部は終戦の昭和20年に最初「米子医専」として発足、その後昭和23年「米子医科大学」となり、翌24年に「国立鳥取大学医学部」が誕生したのです。こちらに来て不思議に思ったのは、タクシーに乗って「大学病院まで」というと「はい、医大ですね」と返され、理容店に予約をすると「医大の長谷川先生が来なさるよ」と言われます。上記の歴史をみると「米子医大」の名称が使われたのはわずか1年間でしたが、記念式典に同じく来賓された伊木隆司米子市長は幼少時より病院に行くときは「医大に行ってくるけん」と言っておられたくらいで、市民に愛されていた病院だったようです。学内開放として、3000人くらいの市民を病院に招いて無料検診や顕微鏡使用など提供していたらしく、市民に近く寄り添っていたようです。

鳥取大学医学部創立75周年記念式典 平井伸治県知事のご祝辞

 鳥取大学病院は鳥取県と兵庫県北部、岡山県北部、島根県東部の約100万人対象の医療圏をカバーしており、卒業生は6000人を超えています。ロボット支援手術などの低侵襲外科やドクターヘリを擁して救急医療に力を入れています。最近、上田敬博教授が救急救命センターに来られ、ますます活気づいています。上田先生は2年前の京都アニメーション放火殺人事件で、90%以上の全身火傷を負った犯人に対し「助けないと犠牲者が浮かばれないと」必死で治療し、この結果犯人は助かり徐々に心を開くようになったと言われていました。(2021.7)

大学医学部の役割

 私は現在大学医学部に所属していますが、医学部についてあまりご存じない方も多いと思いますのでちょっと紹介してみます。ここ中国地方の医学部は、岡山大学、広島大学、鳥取大学、山口大学、島根大学と各県に1つの国立大学と、私立大学の川崎医大があります。その医学部における教授や教員たちの仕事は何だろうかと思われませんか?山崎豊子の「白い巨塔」の中で、末期癌に侵された浪速大学第一外科財前五郎教授は「国立大学医学部の教授は、教育、研究、臨床の全てに完璧であることを強制されるのか?」という言葉を残して死んでいきました。私たちのような医育機関において最も大事な仕事は言うまでもなく「教育」で、後進を育成することが最も大きな使命になります。医学部は6年間のカリキュラムですが、医学的な専門分野の勉強が段々早くから取り入れられる傾向にあり、鳥取大学では1年生の後半から解剖学や生化学、生理学などの基礎医学が始まり、2年生では解剖学や生理学の実習、基礎的な臨床医学の講義(例えば基礎的な消化器病学等)があります。3年生では地域医療や基礎・臨床医学の教室に何か月か配属されて実験や研究などを行います。4年生から臨床医学系の本格的な講義が始まり、ここら辺りから私の出番が回ってきます。担当は勿論「小児外科学」です。5、6年生はクリニカルクラークシップといって臨床各科を周り、我々は「消化器・小児外科」として、5年生では2週間毎に5人の医学生を受け入れ、外来や入院患者さんの担当、手術への参加、検討会での発表などを、マンツーマンで教官が指導に当たります。今の5年生には福山の高校出身者が5人おられ、毎日「尾道ラーメン」や「鞆の浦」の話題をして飽きません。6年生は「医療倫理学」を学んだ後、前半で1か月ごとにクリニカルクラークシップ2として将来的に専門にしたい科を重点的に3科まで選択できます。この辺りから各診療科による学生の争奪戦が始まるのですが、小児外科に進みたい人が今の6年生に2-3人、興味がある人が5年生に4₋5人おられ、期待したいところです。6年生の夏休みくらいから研修したい病院を選んで試験を受け(病院により異なりますがマッチングプログラム)、卒業試験と国家試験をクリアすれば、目出度く医師免許証が与えられます。鳥取大学の学生は半分以上が関西(特に兵庫県、大阪府)出身者で、兵庫県人である私も鳥取県、島根県に残ってもらうように努力しています。上述の福山出身者には福山医療センターを勧めていますので、実習などに行った場合にはスタッフの皆様からご指導の程お願いします。学生指導において大きな問題は、我々が昔勉強した頃とは医学の進歩とともに、同じ教科書も内容ががらりと変わっているという点です。卒業して40年近く経つのですから、当然といえばそうですが、例えば、小児外科は胎内での人体発生の途中で何らかの問題があっておこる「先天性異常」が原因となるものが大半です。以前は人体発生学では形態学が主でしたが、色んな細胞や器官が形成される過程に分子生物学的なアプローチを導入して、あらかじめ決められた(プログラムされた)遺伝子情報に従って次々と誘導されるわけです。一生懸命勉強していかないと最新の情報についていけません。(2020.11)

中海から大山を背景に鳥取大学医学部を望む
航空写真 右は中海
梅の花の頃
ドクターヘリとヘリポート

鳥取大学医学部附属病院

 2020年1月より現在働いているところの鳥取大学医学部附属病院は鳥取県の米子市にあり、県庁所在地の鳥取市とは遠く離れています。この年は暖冬と言われていますが、それでも赴任してから結構な雪が2回積もりました。2月の最初ごろ一晩で50㎝積もっていた時、慣れない私はびっくりしました。送別会で医療センターの有志から頂いた「長靴」が役立ちました。有難うございます。

 鳥取県は島根県と隣合わせですが、どちらも影が薄いため今年の1月ローカル番組の日本海テレビ「カミングアウトバラエティー!!秘密のケンミンSHOW」で、徹底比較する山陰総選挙が開催されていました。「スタバができたのはどっち?」や「大山ラーメン」など、カミングアウト不毛の2大巨頭がたっぷりいじられておりました。考えてみると大学まで毎日朝夕徒歩通勤しており繁華街の中を通って行くのですが、2m以内に人とすれ違うことがほとんどありません。今話題になっているコロナウイルスについては良い環境であり「しえんしえいはえー時に米子にきなったね」とほめられています。鳥取、島根両県とも長い間コロナ感染者が出現しなかったところ、島根県が先にクラスター感染を発生し、そのあおりをうけて鳥取県でも感染者が出ましたが、現在では感染者ゼロという王者的な田舎「岩手県」に次いで堂々2位の地位を誇り「ざまあみろ」と島根県を蔑んでいるようです。

 米子市は人口当たり医者の数が日本一という病院だらけの町で、福山医療センターと同じ国立病院機構の米子医療センターがあり他に労災病院など、人口15万人の米子市には多すぎると思いますが、このような鳥取県米子市にあって、鳥取大学は患者さんには優しい先進的な医療を行っており、その幾つかを順に紹介します。

 今回は、患者呼び出しアプリ「とりりんりん」についてお話します。大学病院という性格上他病院から「大学病院で詳しく診てもらいましょうね」という、責任の重い紹介患者さんが多く、1人あたりにかける診察、検査、治療時間が長く、どうしても外来待ち時間が伸びてしまいます。患者さんだけでなく医療スタッフにとってもかなりのストレスになりますので、患者呼び出しアプリはこれを解消するために昨年9月から病院全科で取り入れられ、赴任の後私が最も感心させられたアイデアです。具体的に言えば「とりりんりん」というアプリは鳥取大学病院が独自に開発したもので、スマートフォンにダウンロードしておくと、事前に予約している再来患者さんは、駐車場など離れた場所からでも受付を済ますことができ、診察時間が近づくと呼び出しメッセージが届くというものです。病院の半径500m以内は使用可能なので、院内のレストランやコンビニにいてもメッセージが来てから動けば良いわけです。トイレに行っている間に呼ばれたらどうしようと、外来で呼ばれるのや番号表示が出るのをずっと待っているのより遥かに快適と思われます。ただ、残念なことはこの「とりりんりん」それほど利用されていないようで、辛抱強い山陰の方々におかれましては、ほとんどの患者さんはトイレも我慢して、いまだに外来待合で耳をそばだて目を皿のようにして順番が来るのをじっと待っておられるようです。