柳生の里

杉の根の露はに階をなせる径登りし処に石仏彫らる
足止めて水引草と言へる声赤く小さき花を並べる
聞き及ぶ峠の茶屋は屋根古りて床机二つを店前に置く
狩野派らし描ける襖覗かせて終りたる年に柱痩せたり
編笠を被り大刀横へし武士の思ひに床机に掛けぬ
草餅を並べしままに人見えぬ峠の茶屋は風渡りゐて
おとなへる声幾度に出でて来し女あるじは手を拭ひつつ
その昔武士も食ひたる草餅の味はひ互にたたえ合ひつつ

伊賀甲賀柳生武を練る人の住み伝へ来りし史のかなしさ
明らかに底ひに白き砂ゆるる柳生の川は声挙げて見る
万珠沙華陽を浴び咲きて水清き堤は昼の弁当開く
戦にそのままとりでとなる構え家老屋敷は山を背にして
陳列をされし伊万里の皿の彩乏しく家老は暮していたり
大名となりし子孫の蔭に見え石舟斎の墓の小さし
案外に細き体をなしゐしと鎧の前を女等過ぎぬ

2015年1月10日