病室の景

からみゐる痰を吐き出す唸る声擦る女の頬赤くして
押へゐる声に夜半を咳込みて誰も耐えゐて患ふらしき
咳込める声の止まざる夜半にてカーテン距つわが耳冴ゆる
誰も皆眠れる室に点滴の透きたる液がきらめき落つる
口中に唇落ち込み頬削げて老婆眠りしいびきかきをり
痰をとる咳する声のいのちある限りの声が夜明にひびく
暖房に病衣つて寝るが見へやせたる脚の大き足裏
腕に針鼻より管を差込まれ安静の手足伸べて寝ねをり
言うことを聞かざる男の大き目のぎろぎろとして瘠せてゆきをり

くり返し声挙ぐ老婆痴呆症と知りつつベットに起きて見守る
血の色の頬に冴えゐる看護婦と見守り採血の腕を差出す
若き女が隣の見舞いに来て居りぬ隣の故に美しくして
カーテンを引きて己の城となし病める四人が一室に住む
咳込みて夜をとうせし男にて昼を寝ねゐるいびきの聞こゆ
人の来し気配に開きし瞳にて血圧計る看護婦が立つ
四日ぶりに膳にのせたる飯の出て腹空きたるをかくさずに食ふ

2015年1月10日