国家と音楽家

 「政治家が料亭通いをすると批判されるが、芸術を愛好していると好意的に受け取られる。コンサートやオペラ、歌舞伎などに行くことや芸術を保護・支援した政治家は批判されることはない。」という序章から始まる、作家中川右介氏による「国家と音楽家」が2022年2月に発刊されました(図1)。音楽家は最初国家のプロパガンダとして利用されたが、後に国を追放されたり粛清されたり、また逆に国家に迎合して自分のために利用したクラシック作曲家や演奏家の実像を描いたものです。「音楽に国境はない」と言われますが、大きな壁を感じた音楽家は数知れなく存在し、文中にはヒットラー、ムッソリーニ、スターリン、フランコ等の独裁者、ケネディ、ニクソンなどの政治家が登場します。これに対してフルトベングラー、カラヤン、カザルス、ショスタコ―ビッチ、ルビンシュタイン、バーンシュタインなどの音楽家達が登場し、国家や民族間の大きな壁によって迫害され、それに屈服、或いは抵抗した各人の生きざまが描かれております。(2022.7)

中川右介著「国家と音楽家」講談社文庫