集団行動

 先日夕方病院近くを歩いていると、鳥の群れが束になってうねるように移動しているのをみかけました。季節的に「渡り鳥」の移動かと思われましたが、「ヌー」という草食動物が食料となる草原を求めて大きな群れを作って集団で大移動をすることや、シマウマやイワシ、ペンギン、アリなどの小動物まで集団移動をすることはご存じのことでしょう。この現象を「マーマレーション」と呼ばれており、リーダーシップをとるものがいなくても周囲の生物の行動を仲間の目印やフェロモン、時には超音波などのシグナルを受け取ってまとまった集団行動を行うものとされています。集団で行動をすることにより捕食者から自分たちを防衛することが一番大きい目的のようです。

移動する鳥の群れ(無料イラストより)

 さらに驚くことに、生物だけでなく、細胞の分化や器官の発生、細胞間の相互作用など、遺伝子や細胞レベルでも、隣の遺伝子や細胞からシグナルを受け取ってこのような集団行動を行っているのです。例えば腸管の蠕動を司る神経節細胞などは胎生期に神経堤というところから食道へまず遊走しその後腸管の壁内を下方へ直腸を目指して一斉に細胞が集団行動を起こすわけです。一説によるとSNSで広がる誹謗中傷もこのような集団行動の1つとされており、同じ種の集団では利益となるひとつの方向に向くときには良いのですが、大回遊するニシンは一気に捕獲され我々の食料になるように、扇動されやすい人間の集団は間違った方向に行くと第二次世界大戦の日独伊三国のように大きな悲劇につながるのです。純粋で真面目な集団ほど同調圧力に左右されやすいので気を付けないといけないかも知れません。

(2023.5)

腸管神経前駆細胞が食道から胃を通り、小腸、大腸に移動する(Nature Neuroscience 2012より)