臨床生活におけるクラッシック音楽の楽しみ方

私は学生時代には大阪、神戸、京都を駆け巡り、週に1回以上はコンサートに行っていました。当時お金もなく仕事をして稼げるようになればMcintoshのレコードプレイヤーとアンプを買いTannoyのスピーカーを部屋に揃えるのが夢でした。しかしながら、実際に仕事をし出してからは予定を立てて演奏会に行くのが難しく、特に小児外科医になってからは、録音したカセットテープなどを行き帰りの車の中や医局でひっそりと聴く以外、クラッシックに触れる機会はほぼ完全に奪われてしまいました。それでも最近では、NHK BS などで留守録した演奏を、夜にゆっくり聴くことを楽しみにしています。特に古典の文学作品などを読みながらこれらを聴くことは、優れた芸術品に触れることができ、お金もかけずに高い精神生活を送れるので、生涯の趣味にしたいと思ってきました。

内容は中世音楽から現代音楽まで、あらゆるジャンルに及び、特にモーツアルトやブラームスなど妥当な路線をきましたが、最近はフォーレなどの印象派、マーラーやショスタコービッチなどが好きになっています。もちろん歌謡曲もジャズも聴きますが、私にとって何回聴いても飽きないのはやはりクラッシック音楽です。中でもバイオリンやチェロなど弦楽器が好きで、これらを聴きながら論文を書くと頭の中がすっきり整理され、すごくはかどりました。

日本の小児外科医は仕事熱心で、夜昼なく患者さんのために身を削って働いてこられていますが、その中でも「私の趣味」的な話は多くの方が紹介され、ハードな仕事から解放されて自分らしい時間を持ち、忙しい臨床生活の一方でQOLを高める努力をされておられ、逆にそれが立派な仕事、業績につながっていく話が見受けられます。臨床医の皆さんは登山、サイクリング、写真、釣り、囲碁など、様々な趣味をお持ちのことと思いますが、私は小さい頃からクラッシック音楽が好きで、臨床生活の中でも手軽に、比較的安上がりで親しむことができるため、小児外科の臨床を行いながらこの「ささやかな楽しみ」を取り入れております。

クラッシック音楽が好きで臨床の合間に気晴らしで聴いてきましたが、これからもデスクワーク時等のBGMとして、このスタンスは変わりません(ただし手術中には嫌いな人がおられるかも知れず聴いていません)。またスコアの分析とともに、作曲家のおかれた立場などから曲にこめられた深い感情というものが聴き取れるように解釈をして、器楽曲や交響曲だけでなく、ワーグナーやベルデイの楽劇・オペラ、シェークスピア悲劇やゲーテの戯曲を題材にしたもの等、人生の悲喜劇などを考えながら味わっていきたいです。さらに、シェークスピア劇の歌舞伎仕立てなど斬新な試みにも触れ、また日本の古典「能」などにも西洋クラッシック音楽に共通したものが感じられるので、色々な分野における優れた芸術作品を、これからも貪欲に味わって、末永く楽しんで行けるように努力を続けたいと思います。