細胞や器官の発生

 私は、小児外科を専門としております。扱う病気のほとんどは身体の発生異常で、お母さんの胎内にいる間に起きます。では、私たちの身体の細胞や器官はどのようにして出来上がるのかご存じでしょうか。今回はごく簡単に人体発生について述べてみたいと思います。

 私たちの身体はいくつもの臓器から成り立ちますが、それを構成する組織は200種類以上、さらにその成分の細胞は37-70兆個にも及びます。その最初の細胞はたった1個の受精卵(精子が卵子と受精したもの)であるのです。驚くべきことだと思いませんか?!(私は学生の頃この生命の神秘に大いに感動しました)。この性質のため受精卵は全能性の細胞と言えます。その後受精卵は細胞分裂を開始し、2分割、4分割と卵割を行い、桑実胚を経て子宮内膜に着床して胎盤が出来ていきます(図)。その過程で内部に杯盤胞腔という腔(体の中で空になっている部分)を形成し、それに偏在した形で内細胞塊が出来ます(図1赤枠)。これはのちに内胚葉、中胚葉、外胚葉の三胚葉に分化する能力を持つ多能性(Pluripotent)細胞で、後述するようにそれぞれ決められた組織や器官に分化していくのです。これらは組み込まれた(プログラムされた)遺伝子の情報に従って順序よく正しく行われていくのです。不思議ですね⁈(2021.1)

受精卵は分裂を繰り返し、2細胞、4細胞から桑実胚を経て子宮内膜に着床する。(白澤信行:新発生学、日本医事新報社、より)