家音楽会

 私はただでさえ大阪や東京に出にくい米子の地で、趣味のオペラやクラシックコンサートに行けず、貸マンションの一室で「家音楽会」をしております。各演奏家たちは無観客のイベントやWEB配信など、様々な工夫をされているようですが、私の「家音楽会」は、以前からやっている「総譜を読みながら交響曲や器楽曲を聴く」というものです。ご存じとは思いますが「総譜」とはスコアとも言い曲を構成する全楽器の楽譜が書かれているもので、指揮者が譜面台において各パートに指示します(カラヤンは暗記でしかも目をつむって指揮していた)。例えば交響曲なら上から木管楽器、金管楽器、打楽器、弦楽器というようにそれぞれの楽譜が並んでいます。

ベートーベン作曲交響曲第五番「いわゆる運命交響曲」第4楽章冒頭の総譜

 作曲者が作り出したどのような曲においても、それぞれの楽器に1つ1つの音を出すように指示するために「音符」という特殊な記号で五線紙に書かれたものが楽譜で、ちょうど特殊な言語でコンピューターを動かすように書かれた「プログラミング」のようなものです。

 演奏者はそれを読みながら演奏して作曲された音楽を再現し、通常ならホールやサロンで観客とともに芸術空間、時間を共有するわけです。指揮者になった気分で「総譜」を読むと各楽器の細部まで作曲者の意図を知ることとなり、音楽の神髄が味わえます。「総譜」が分かれば頭の中で音楽が組み立てられコンサートホールに行かなくても、極端な言い方をすれば音を出さなくても音楽を楽しめるということになり、ストラデイバリウスのバイオリンやタンノイのスピーカー等は意味の無い存在となります。以前私の大学の後輩で「コンピュータのプログラミング」を見ながら、頭の中でそれを組み立ててニヤニヤしたり、時に「くくっ」と笑ったり怒ったりという、薄気味悪い天才がいましたが、今となってはその変人の気持ちが分かるような気がします。(2020.9)

コンピュータのプログラミング(Wikipediaより引用) これでコンピュータの働きを作る