2年ぶりにオペラを観てきました。演目はリヒャルト・ワーグナー作曲「ニュルンベルグのマイスタージンガ―」という3幕もので、上演時間は約6時間、14時開始で休憩をはさんで終わったのは20時過ぎ。最近の欧米における蛇使いの女性とニシキヘビ、象や馬、犬やワニなどが登場する演出とは違い、劇中劇も取り入れたオーソドックスですが見ごたえのあるものでした。
会場である新宿の新国立劇場では感染対策のためクローク無くコートやカバンを椅子の下か膝に抱えないといけないし「ブラヴォー!」の掛け声禁止。観客が曲の間におこなう咳払いも周りの「自粛警察」による咳エチケットのチェックが徹底され殆ど聞かれませんでした。長い公演の間の飲食についてはホワイエでのシャンパンやワインサービスは勿論なく、座る椅子も減らされており皆さん持参のおにぎりやサンドイッチを立って食べるという状況でした。
最も大きな問題はトイレで順番待ちに1-2m空けて並ぶようにという規制が明記されていましたが、ちゃんと守ると新宿駅まで長い行列ができたことでしょう。
これらのことはどうでもいいのですが、オペラの内容はギルドという職業組合や徒弟制度が全盛であった中世のドイツにおいて「ジンガ―(歌手)のマイスター(職人)」を選ぶために歌合戦を行うというものです。ポーグナーという裕福なマイスターが伝統と格式をもつ素晴らしい歌を作詞作曲して優勝したものに、自分の全財産と一人娘を与えるという「吉本新喜劇」でも取り上げられないような茶番の内容で、ワーグナーが作曲した唯一の喜劇です。
新国立劇場:いつもならこのホワイエ(ロビー)でシャンパンやワインがふるまわれる。
19世紀半ばの当時「標題音楽・舞台芸術」を追求していたワーグナーは、音楽は音による構成によってのみ価値があるという「絶対音楽」をバッハやベートーベンから受け継いだブラームスと激しく対立していました。
特にブラームスを支持する音楽評論家のエドウアルト・ハンスリックからはいつも酷評されていたため、オペラの中でハンスリックをベックメッサ―という書記官として登場させ、狡猾な手段を使ったが結局歌い損ねて敗北し、民族的・宗教的な恨み辛みも併せ散々な目に合わせております。
その姿をミュートしたトランペットとホルンによるグロテスクな響きをバンダという別編成隊で演奏されていました。これに対しワルターという他所から来た若い騎士には「人生の冬の喧騒の中で美しい歌を作れる人が真のマイスターである」として見事優勝させており、新しい芸術(標題音楽・舞台芸術)が低迷していた古臭い音楽(絶対音楽)を凌駕するという手前味噌的、倒錯した主題がこの作品の1つのテーマになります。
が、オペラの音楽自体はライトモチーフが各所で表現された作品で、野和士指揮東京都交響楽団と新国立劇場、二期会合唱団の演奏は素晴らしかったです。
演出はドイツで活躍するダニエル・ヘルツオークで、最後にマイスターの称号を与えられたワルターが自分の肖像画を破り捨てるという試みも斬新で面白かったです。(2021.12)