グルック作曲バロックオペラ「オルフェウスとエウリディーチェ」

 2022年6月東京において新国立劇場オペラハウスでグルック作曲バロックオペラ「オルフェウスとエウリディーチェ」を観てきました。2021年11月の時と比べて、新宿初台の辺りにはすっかり日常が戻っていました。相変わらずクロークは閉まっており、マスク着用とブラボー禁止命令は出ており登場人物の1部はマスクをしたまま踊っており興ざめでしたが、ホワイエでのシャンパンサービスは復活し、かなりリラックスした感じは戻っていました。

シャンペンサービスが復活した東京オペラパレス

 このバロックオペラの代表的な作曲家としてイタリアのモンテベルディ、フランスのラモー、ドイツのヘンデルや今回のグルックらが挙げられます。男性の高音域のカストラート(現在ではカウンターテナーや女性のコントラルトやメゾソプラノが歌う)の特徴的な歌い方、ハープや弦楽器による単旋律のような独特の響きで非常に美しい音楽です。指揮はバロック音楽の大家、バッハコレギウムジャパンの鈴木優人氏でした。オペラの内容は言うまでもなく非現実的なもので、ギリシャ神話に登場する吟遊詩人(詩曲を作り竪琴などを持って各地を訪れて歌う)オルフェオが主人公。その妻エウリディーチェが新婚早々に毒蛇に咬まれて死亡し黄泉の国にいるのですが、オルフェオが連れ戻しに行くという奇妙な物語です。オルフェオは黄泉の国、つまり死後の世界にどうやって行ったのが分かりませんが、コーキュートスの川(いわゆる三途の川でしょうか)の向こうに渡って、死霊たちに交渉したところエウリディーチェとの面会が許されます。そして、神々の許可を得て地上に連れ戻すことになり手を取って地上を目指すのですが、その時に振り返ったりしてエウリディーチェの顔を絶対に観てはいけないと約束をさせられます。これは「見るなのタブー」を扱った古今東西に共通したテーマで、日本では民話「鶴の恩返し」を題材にした木下順二による戯曲「夕鶴」が有名です。ところが、この約束のことを知らないエウリディーチェは夫オルフェオのよそよそしい態度に徐々に不信感を抱くようになり「私を愛していないのね!死んだ方がましよ!(既に死んでいるのですが)」と「昼ドラ」で良く聴くセリフを繰り返すと、「昼ドラ」の主人公オルフェオは遂に振り返ってしまうのです。ギリシャ神話の原著ではここでエウリディーチェは死んでしまうのですが、グルックはオルフェオの誠実さが証明されたとして生き返らせ、ハッピーエンドにしています。流石、うまいですね!まあ、話の内容はこんな感じですがオペラ中のアリアや幾つかの音楽は澄み切ったメロディー等感動的ですので「精霊の踊り」なども併せて一度聴いてみてください。YouTubeなどで簡単に視聴できます。この物語は後にフランスのオッフェンバックにより「地獄のオルフェ(別名、天国と地獄)」というオペレッタにパロデイ―化されています。(2022.6)

黄泉の国からエウリディーチェを連れ戻すオルフェオ(ウイキペディア)

オッフェンバック作曲オペレッタ「地獄のオルフェ」(ウイキペディア)